新しい経営とは(第3版)
2001年10月20日
堀川 哲朗
私の考えでは、これからの経営の要諦は以下の様な物になるのではないかと思います。
基本は、至ってシンプルです。イメージは三国志です。
1.市場原理(チェックアンドバランス)と適切な利益配分
日本には充分に技術・発想の芽が有ります。それが花開かない最大の理由は、利益の配分が適切になされていないからだと思います。確かに現状でも、一部上場企業の労働利益分配率は、50%程度であるといわれており、これは利益の概ね半分が従業員に分配されている事を意味します。全体としてみれば、これはこれで良い事だと思うのですが、問題は、その分配方法にあります。
すなわち、戦後から高度成長への時代では右肩上がりの成長が保証されていたので、インプットをとにかく大量に投入すればそれに比例して成長することが出来ました。終身雇用・年功序列の制度は、均等で比較的良質の労働力をできるだけ安定的に大量に投入するという文脈の中では、確かに大変よく機能し、相応の合理性があったに違いありません。しかし、「ニューエコノミー」(ITによって生産性の向上が続くが、それと比例して慢性的なモノ余りになり、低成長が続くため、いわゆる勝ち組と負け組が峻別される状況。これまでのモノ不足・大量生産・大量消費の時代の常識が通じない。)の時代にあっては、とにかく量を投入すれば良いというものではなく、その質とタイミングが量以上に重要になってくるので、安易に終身雇用・年功序列を続けていたのでは、実績と報酬(分配)とのバランスが極度に歪む事になり、若くて有能な者の実力発揮、モチベーションを低下させて、かえって逆効果になってしまいかねません。「ニューエコノミー」とは、一騎当千のつわものが、凡庸な何千人からなる集団を打ち負かす、まさに三国志状態なのですから、これでははじめから勝ち目がありません。中村修二氏をそれ相応の待遇でもてなせない様な企業に明日はないのです。
アメリカなどでは、業界にもよりますが、実績に応じた報酬という原則を目指すという理念が確立されている為、やる気と能力のある人が、実績を出し、それに応じた報酬を受け取る事で、ますますやる気と能力を増大させるという、好循環が上手く機能して、昨今の経済成長を謳歌したと言えましょう。現在多少の調整期に入っているとはいえ、その基本的な文脈に変わりがある訳ではありません。むしろ、この様な「ニューエコノミー」(これまでの大量生産・大量消費の原則が通用しない新しい経済)への対処が日本などよりはるかに進んでいる分、調整後の立ち直りは早いでしょう。
こういったマクロ経済的な現状分析の子細は他書に譲るとして、ここでは、どうすれば、この様なダイナミズムを実際に手にする事ができるのか、以下に具体的にミクロレベル、つまり企業の経営レベルにまで落とし込んで考えてみましょう。
2.基本原則
業種によっても多少の違いがあるでしょうが、基本的に以下の原則を守るのが有効と考えます。
各利益創出単位(プロフィットセンター)の従業員が上げた利益の一定割合(ここでは便宜的に半分と想定します)を従業員が取り、残り(半分)を会社が取る。会社はこの利益の範囲内で管理部門を養い、利益を出して株主に配当する。
以上です。もっとも、これではあまりにも単純すぎるので、以下に補足説明していきます。
3.給与計算の基本
新しい経営では、従業員の給与をどのように決定するのかが一番重要ですから、この問題を一番最初に持って来ました。なぜなら、前述したように、一騎当千のつわものどもを、どのように発掘・育成し、手元に置いて遺憾なく戦力発揮させるかがこれからの経営の要訣なのですから。世界規模で瞬時に情報がやり取りされ、敷居の極めて低くなりつつある現状で、やりがいや義理人情だけで有能な従業員を手元に引きとどめておくのは、不可能な話です。もっとも、その様な要素を否定するものではなく、むしろ非常に重要なものであるとは思うのですが、経済的な利益が第1に保証されており、その次にそういった要素が続くというのが世界標準の考え方なのです。
給与は基本的には自己の生み出した付加価値(=利益)に基づいて支払われるべきです。しかし、全くの能力給という事にすると、新規事業を開発する時、万一業績を残せなかった場合に生活ができなくなるといったリスクを負うことになります。その為、皆が変化を恐れ、短期的な利益獲得に走り、長期的な観点が失われがちになるかも知れません。そこで、生活に必要な最小限の給与は、固定給として支払います。これは、年齢や在社年数、家族構成等を考慮して算出します。(この部分については、かなり年功序列的なものになるでしょう。)
基本的には売上粗利益から自分の活動経費を引いたものの半分が自己の収入になりますが、もしその金額が固定給の金額を超えない場合は、固定給が支払われる訳です。利益が一定の水準を超えない場合、固定給支払いは会社にとって負担になりますが、各人は最小限の生活を保障されることで、リスクを取って新規事業にチャレンジする事が可能になり、ひいては会社にとっても効率的に新規事業が展開できることになります。また、いつまでも固定給の水準を越えることが出来ないままだと、会社に貢献していないことが一目瞭然ですから、早くその情況から脱出できるように各人努力するインセンティブが働きます。この辺の考え方は、他のいわゆる実力主義・能力主義の主流の考え方に比べ、かなり独特のものだと思います。(イメージとしては、下図の様になります)

4.従業員の福利厚生費と支出コントロール
福利厚生費は、基本的に従業員自ら選択します。会社から出た給与を元に、必要なサービスだけを会社に委託する形にします。こうする事によって、会社の福利厚生事業は、極度に効率化されるでしょう。現在の多くの企業の福利厚生は、本当はかなりのコストがかかっているのですが、従業員からはそれが見えにくく、あたかもタダのように錯覚してしまうので、誰も何も文句を言わない訳です。もしこのコストが非常にクリアに見え、かつ、それを取りやめたらその分給与がアップするとなると、殆どの従業員が、多くの福利厚生サービスが不要だと訴え始めるでしょう。
但し、厚生年金や社会保険については、制度上の制約(会社の折半出資が義務づけられている)がある為、ほぼ全員が会社に委託する事になるでしょうが、それでも、年金では確定拠出年金が主流になるなど、実質的な会社離れは進むでしょう。
5. 営業部門の利益計算
営業部門は、売上、仕入、そして利益がクリアに目に見えるので、比較的シンプルです。ある製品の販売(プロジェクト)に責任を持つ単位をチームとし(規模は1人から数十人になるかもしれません。それはプロジェクトの内容と、進捗状況、独立採算が取れるかどうかにより決定されます)、その売上粗利益(売上−売上原価)から各活動に必要な給与以外の経費(交通費、通信費、その他雑費、事務所の割掛け経費など)を差し引きます。交際費は同額を別途管理部門へ納めます。その残額である利益を会社とチームとで折半します(前述の2.基本原則の通りです。管理部門に納める利益の割合は、会社の情況によって別途調整が必要)。
チーム内での利益の分配については、そのチームリーダーが、各チーム員の働きを評価して、その評価に応じて分配します。利益を適切に分配する事は、チームリーダーの最も重要な役目の一つです。情報の共有化と人材の社内流動性は完全に確保されています。こういった状況下では、下手な分配は命取りとなります(不公平な分配をするなどして、リーダーに人望がなくなれば、部下は簡単に別の部署に移っていきますから)。従って、チームリーダーの行動に対して十分なチェック機能が働きます。
一般的に新規事業は個人もしくは、意気の合った者同士のチームで始まり、事業が順調に推移すれば、社内外の公募により、新たなメンバーを募ります。社内公募に応募する人は、現在の仕事とそれによる利益の分配、それと将来行くであろう部門の将来性(将来の期待利益、リーダーの魅力など)を比較して、公募先がより魅力的であると判断すれば応募する事になります。こういった個人の合理的な判断・行動が、全社的に合理的な資源(人材)配分を自動的に達成させる事になります。
個人が複数のチームに所属する事は、それが実際に可能である限り、可能です。具体的には、@同一市場(=ある特定の国など)において、違ったチームが扱っている製品を同時に販売する。Aあるチームで開発した商品に改良を加え、別のチームから別市場に売り込むなど。
当然、その貢献度に従って、複数チームからの利益の分配を同時に受けられます。
6.経費計算における合理性の追求
一部の企業においては、経費(=営業活動に係る費用)を細かく分けて予算管理し、支出をコントロールしている所もあるようですが、これはまったく無駄なことです。確かに、製造部門などでは、このようにして製造原価の低減や品質管理に寄与する事もあるのかと思いますが、営業部門は製造部門とは違います。必要な支出を必要なときに迅速に出来るようにしていなければ、営業活動で成功するのは難しいでしょう。個別の項目にどれだけ使ったかはさして重要ではなく、あるパフォーマンス(受注・売上)を得るのにどれだけの活動費用(経費)を使ったか、ひいては、その結果、利益がどうであったのかが一番重要なのであり、不景気だから経費を削る、その結果顧客に十分なフォローができず、顧客を怒らせて売上を減らしてしまう、といった事では話になりません。
では、どうやって無駄遣いを抑制するのかという話になるかと思いますが、だからこそ市場原理を働かせているのです。上記のとおり、利益(売上―売上原価―経費)の半分が、基本的に自分の取り分(給与)になる訳ですから、無駄遣いするはずがありません!もし、細かな予算制度に縛られており、かつ、利益と給与との関係が薄ければ、いっぽうでは予算不足で必要なものが買えないのに、もう一方では余っているので、次期に予算を減らされないように無駄遣いするといった事態が散見される事でしょう。どちらの制度のほうが合理的で、会社全体の利益に貢献するでしょうか?
7.交際費の特殊計算
交際費については、税務上損金算入が出来ないので、これについては、掛かった費用と同額をチームの利益から差し引きます。
例えば、交際費控除前の純利益が60として、交際費を10とします。すると、社内的には倍の20掛かったように計算するので、交際費控除後のチームの純利益は40。自分の取り分はその半分の20になります。これに対して、会社の交際費とはせずに、自腹にしたとしましょう。すると、純利益が60で自分の取り分は30。交際費10を自腹で払って、20が手元に残ることになり、結果的に交際費にするか自腹にするかのインパクトはまったく変わらないことになります。厳密にいうと、自腹にしたほうが、所得税が上がりますが、自腹を切った方が会社に対して後ろめたい思いをする事もなく、自尊心も満足させられるので、これまでの様になんでもかんでも交際費にしようとするインセンティブがなくなり、交際費の支出が自動的に適正化されることになります。(従来の方法では、交際費の使用額と給与の連動性が薄かったので、いわば使い得となり、何らかの規制が必要となって、往々にしてそれが社内政治のコントロール手段として使われてきました。これは、顧客第1主義の徹底と、それによる利益の極大化という、商売の第1目的追求を忘却させ、経営管理をゆがめる元となりがちでした。)
8. エンジニア部門の利益計算
営業部門は以上のように比較的シンプルですが、では、エンジニアはどうするか?
大きく次の2つの立場から考えます。
(1)研究開発者:
研究開発者は基本的に自己が開発した技術によって食います。すなわち、自己の発明を特許登録し、もし、権利使用料が入れば、半分を自己の収入とし、半分を会社に提供します。この際、多額の収入を得た者は、自発的に会社に研究設備を寄贈したり、社会に還元する等の姿勢が望まれるでしょう。中村修二氏も、もしこの方法なら会社を去る必要もなかった事でしょう。そして、会社により大きな利益をもたらしたに違いありません。
(2)生産管理者:
生産の合理化が収入源になります。すなわち、営業部門への引渡価格から、材料・人件費を含む全ての製造コストを引いたものの半分を給与として取ります。残り半分が会社の取り分です。
この際、営業部門への引渡価格をどう設定するかがポイントになりますが、基本的には、同業他社から同様の物を仕入れた場合の価格(市場価格)が、一つの基準となるでしょう。
もちろん、現在の生産性等を考慮して、修正を加えます。
市場にこれまで存在しなかった製品の場合は、営業部門と相談の上、適切な引き渡し価格(営業にとっての仕入価格)を設定し、仕入価格から製造原価を引いたものの半分を会社に納め、半分を自分で取る事になります。この仕入価格は、その後の市場実勢、営業部門の販売実績等に基づいて、適宜修正されます。
9. 管理部門の利益計算
管理部門をどうコントロールするかは、最大の難問です。パフォーマンスを測る客観的な尺度が得られにくく、注意を怠ればすぐに肥大化し、企業活動の勢いを削ぐ(いわゆる大企業病、企業組織の官僚化)元となるからです。一般に、管理部門は自分を良く管理することが出来ません。
方法の一つは、同様の内容をアウトソーシングした場合の経費(=市場価格)と比較する事です。比較して、同じ内容をより安い経費(給与含む)でやっていれば、その差額を利益とみなし、その半額を加給金(ボーナス)として還元します。
もう一つの方法は、総量規制です。
会社は基本的に各利益創出部門(プロフィットセンター)の利益の半分を得ますが、これを限度として管理部門を養うのです。会社に集まった利益から管理部門に掛かる総ての費用、例えば、会社社屋のレンタル料や減価償却費(営業部門の利用実績に応じた負担額を除く)、全社備品費、管理部門の経費(人件費含む)などを差し引いたものが全社の利益となります。この利益から税金や株主への配当を支払います。管理部門活動の原資がプロフィットセンターの利益で制限されている以上、管理部門の肥大化を自然に押さえることが可能になります。また、もし少ない人員で管理部門をマネージ出来れば、管理部門一人当たりの給与を引き上げることが可能になり、同時に生産性が向上します。さらに、プロフィットセンターの利益が増えれば自分たちの活動原資も増えるため、プロフィットセンターへの協力が積極的になります。
管理部門の費用を何でもかんでもプロフィットセンターに割り掛け、プロフィットセンターの利益管理を厳しくするのは、結果的に管理部門の肥大化の悪循環を招くだけであり、最悪の方法です。なぜなら、管理部門からの割り掛けが増えればその分営業部門の負担が大きくなり、余分な人員を抱えておれなくなります。その結果、余剰人員を外に放出するようになる。そこまでは、ある意味、営業部門の合理化を図るといった、当初の目的どおりですからいいのですが、問題なのは、この余剰人員をどうするかです。仮に、この余剰人員をリストラするなら(個人に対する倫理上の問題はともかくとして)、会社の行動としては極めて理にかなったものです。しかし、リストラできないのでこの人を管理部門に移動させるという事態が生じている会社があります。こうなると、管理部門という、生産性のない部門に人が増える訳ですから、営業部門にあまり働きの良くなかった人がいた時よりも、会社全体の生産性はさらに低下したことになります。さらに、営業部門へさらに大きな割りかけ経費がのしかかり、営業部門はさらなるリストラを迫られ、本当は必要な人員まで放出せざるを得なくなり、その部門は新規開発も出来ないどころか、縮小均衡の道を歩まざるを得ない・・・といった最悪の事態になりかねません。
発想の転換と新しい経営の実行が待ち望まれているのです。変わってこそ、チャンスがあるのです。
以上